Atlatlって、なんだ?
…と思った方も多いと思う。というか、私も今回このイベントに参加するまでこんな言葉きいたことなかった。
Atlatlはもともと古代アステカ語らしく、日本語に訳すと「投槍器」だが、北米では今でもatlatlと呼んでいるらしい。氷河期の人々がマンモスやアザラシなどを狩るときに使っていた道具のようで、長い槍を投げやすくする道具、ということになる。もともとこの道具は氷河期にベーリング海峡を渡って伝わったものだとか。アジアでも使われていたのだろうか。
このatlatlを使って槍を投げる「Atlatl競技会」が、週末にネイティブヘリテージセンター(正確にはその駐車場)で行われるというので、冷やかしに行ってきた。主催は「アラスカ歴史考古学研究会」(勝手な訳)。
受付でルールを確認し、名前を記入して入場。子供は8歳以上から参加可能、ということ。「でも、まあ、それ以下の子供でも、混雑具合とかによって参加できるかもしれないから、研究会のメンバーに確認してね」とのこと。我が家の5歳児にも「ぜひやってみなさいね」なんて、声をかけてくれる。
「競技場」(駐車場なのだが)内はあちこちに手作りの的がおかれ、研究会メンバーが参加者に真剣に投げ方の指導をしていて、参加者はそれぞれの的で得た点数の合計点で競うのだが、全体的にはゆるい感じなのがいい。
さっそく5歳児も挑戦。特別に近くから投げさせてくれる。
これは「にんじん」の的。

私もやってみたのだけれど、なかなか難しい。ともすると、槍だけでなく、このatlatlまで投げてしまう。なかなかまっすぐ飛ばないし、飛距離も出ない。
でもこの競技、5歳児の琴線に触れたようだ。全部の的を回る、と言う。
これは「マンモス」の的。

さらに、「熊」の的。これは矢じりがついている槍ではなく、ゴムが付いている槍を使うもの。

それぞれの的で利用するatlatlはみな微妙に形が違っていた。槍もatlatlも、おそらく研究会メンバーの手作りと思われる。研究会の人たちはこのイベントにみな非常にまじめに取り組んでいて、教え方の丁寧さも半端じゃない。5歳児にも大変親切に教えてくれた。彼らの指導のおかげで、球技が苦手でボールを前に投げることすら不確かな私も、何度か的に当てることができた。
冷やかし、のつもりが、気づくと2時間近くも経っていた。
このイベントは毎年行われていて、今年で14回目なのだそう。アラスカ歴史考古学研究会はクールに熱いのだ。Atlatlを使った槍投げに挑戦してみたい方、ぜひこの時期にアンカレジに来られたし。

「Where Alaska」という雑誌の創刊記念パーティに出かけた。
アメリカだけでなく世界各地の観光地で無料提供されている観光案内誌のアラスカ版で、年1回刊行。アラスカ中のホテルロビーなどで入手できる。別冊レストランガイドも後日発行されるらしい。
会場はアラスカネイティブヘリテージセンター。アラスカの先住民の住居や暮らしぶりを垣間見ることができる屋外型展示施設。パーティはそのイベントホールで行われた。
http://www.alaskanative.net/
(注:現在は特別イベント開催時以外は冬季閉館中。5月13日の母の日から9月3日のレーバーデイまで、毎日午前9時から午後5時まで開館予定)
入り口のワタリガラス。

受付をして中に入り、さっそく飲み物とオードブルを楽しむ。まだあまりゲストは来ていないようだ。
ホーマーにあるBear Creek Wineryのワインの試飲も。ぶどうだけのワイン、ラズベリーやブルーベリー、黒スグリなどのベリー類や、ルバーブ(巨大葉っぱの植物で茎をジャムなどにする)などをプラスしたワインなど、アラスカの数少ないワイナリーの中で草分け的存在。

シャルドネは寒いから酸味が強いかと思いきや、酸味とフルーティな香りのバランスがよく、なかなかしっかりしたボディのワイン。イチゴとルバーブのワインは、さわやかな甘さで初夏のアペリティフにぴったり、かも。
しあわせ~!
ホーマーに行かれる際にはぜひ(ちなみにホーマーにはおいしい地ビールもある)。ちなみにBear Creek Wineryのワインは、アンカレジのリカーストアでも買える。
おっと、今日は飲むのが目的ではない。雑誌の紹介の後は、ネイティブダンスのアトラクション。
ひとつひとつの動作にどんな意味があるのか教えてくれる。そして、ラブレターの歌、アークティックターン(極アジサシ)の歌、ともう1曲の合計3曲を踊ってくれた。


ドラムのおじさんは歌も歌う。同じフレーズを何回繰り返すかは全てドラムのおじさんの気分によるらしい。
ゆっくり淡々と、そして時に速く激しく、ドラムと歌は続く。終わらない演奏に、ダンサーのおばちゃんたちは「え~、まだやるの?(笑)」「まいっちゃうな~(笑)」みたいな雰囲気を装いつつ、汗をかきかき楽しそうに踊り続ける。
最近ダンスに興味のある(?)5歳児の目は舞台にずっと釘付けだった。
このダンスチームは、5月末までNative Hospitalのロビーで毎週1回火曜日の夜に練習をしているので(夏の間はお休み)、チャンスがあればぜひ行ってみられたし。
ダンスが終わって、外に出た。
アサバスカ族、ハイダ族、アリュート族、アルティーク族などの住居やクランハウスを見て回る。夏の間はそれぞれの建物に解説をしてくれる人がいるのだが、今日は自分たちで見学。


夕方の陽射しがまだ温かい。もう7時30分だというのに。

この夏アラスカにいらっしゃる方、Whereを見つけたら手にとってみてください。そして、ネイティブヘリテージセンターにもお運びくださいね~。
今日しろくまオフィスで、珍しいお客さんを30分ほどお預かりした。
珍客集団は、箱に入ってやってきた。

宅配便のお兄ちゃんがそーっと持ってきたのは、なんと、ミツバチである。箱に「大至急 生きた女王蜂」の他、「室温で保存 殺虫剤を避ける 太陽光禁を避ける 十分に換気」なんて印刷してある。
実は、しろくまオフィスの斜め向かいのおじさんから、「お昼時間にオフィスを留守にするので、もしその間にミツバチの配達があったらしろくまオフィスで預かっておいて」とお願いされていたのだ。
このおじさん、お家に蜂の巣をおいてミツバチを飼っているらしい。春になって、新しいミツバチ集団を導入すべく、アーカンソー州から女王蜂とその取り巻き集団をまるごと取り寄せたらしい。
彼らがオフィスにやってきたとたん、ブワンブワンという羽音が空気を振動させるのがわかった。そして、箱に触ると温かいのだ。ミツバチ集団の活動は発熱を伴うことを初めて知った。
網が二重になった空気穴からは、無数のミツバチがうごめいているのが見える。

いやあ、ミツバチが通信販売で買える、というのも初耳だが、ハチ配達専用に作られた箱があるってのも初めて知った。
配達直後は騒がしかったミツバチたちの羽音は、しばらくすると落ち着きを取り戻したかのようにやや静かになった。
しばらくしておじさんが帰ってきた。おじさん、箱を持ち上げて「こりゃあいいハチだ」とニコニコ顔。素人の私は知る由もなかったが、明らかにいいハチとよくないハチがいるらしい。そして、ミツバチ代よりもミツバチの配送代の方が高い、ということもわかった。
おじさんの登場でミツバチたちは再びにぎやかさを取り戻した。おじさんによると、アラスカでの養蜂は気温が低いことがあって何かと大変らしいが、養蜂は「とても面白い」のだそうだ。
おじさんとミツバチ集団がオフィスを去ると、何だか寂しくなったような気がした。
今度は人間のお客様、お待ちしております。
先週末、アンカレジダウンタウンにあるデナイナコンベンションセンターで行われた、キッズデイというイベントに出かけた。子供のためのプログラムを提供している各種団体が集まり、いろいろなアクティビティを提供するというイベント。
せっかくのお休みなので、のんびりと市バスPeople Moverでダウンタウンまで行くことにした。子供の頃から地下鉄、市バスに乗り馴れていた日本生まれの私と違って、いつも車で移動のアンカレジ生まれの5歳児にとっては特別な体験だ。

開場早々に到着。歩行者天国(死語ですか?)になった一角には、消防車、パトカー、装甲車?などいろいろな車が停まっている。



個人的にはあまりお世話になりたくないが、万が一何かあったときにはよろしくお願いせざるをえない。
乗馬クラブのデモンストレーション。

ポニーやヤギなど「ふれあい動物園」もあった。
屋内には100以上の団体のブースが。
テニスクラブかな?子供用にやわらかいボールを使ったテニス、だって。

こちらの学校は夏休みが約3ヶ月あり、子供の面倒を見る大人がいない家庭は夏の間子供を「サマーキャンプ」(と言っても宿泊はなく、毎日通って過ごす学童保育みたいなもの)に通わせることも多い。空手、サッカー、水泳、ダンス、などなど、各種スポーツクラブもサマーキャンプを行うので、今回ブースを出してサマーキャンプの勧誘を行っているところがたくさんあった。
その他、子供が本を選ぶとボランティアが読んでくれて、それをお土産に持ち帰れる、という企画では、ミセスアラスカ、市長さん、警察署長さんたちがボランティアとして本を読んでくれていた。市長さんに「本読んであげようか?」と言われた5歳児、かたくなに首を横に振る。まだ朝も早かったからか?
他には、お決まりのフェイスペイント、風船おじさん、などなど。

舞台では子供たちの楽器演奏や男女を問わない子供版「ミスアラスカ」(だってco-edって言ってたもん)たちの紹介、民族舞踊、などなどの発表があった。
たくさんお土産をもらって、家人のお迎えを待つ間Snow City Cafeでランチ。相変わらず満員だった。子供用ブルーベリーパンケーキと子供用マカロニ&チーズ、食欲旺盛な5歳児は両方食べたい、というので、たまの休日、大サービスで両方注文。どっちも結構なボリューム。私はカップスープと5歳児のおこぼれ。

…ってなわけで、週末の「デート」に5歳児大満足。たまにはこんな休日の過ごし方もいいね。
この冬史上最多の積雪を観測したアンカレジであるが、太陽の力ってすばらしい。あちこちで視界をさえぎっていた壁状の雪も、春分の日を過ぎた頃から固体から液体への変化をとげて激しく消失しつつある。
実はこの時期、空気の汚れがけっこう大変だ。街中の主な車道、中央分離帯、歩道などの雪がほぼ完全に融けた今、雪の下、あるいは中に埋もれていた埃やゴミ、スリップ防止用に撒かれる砂、スパイクタイヤが削ったアスファルトの粉、などなど、諸々の物質が粉塵となりアンカレジの空気を満たしているのだ。
外に出ると髪の毛や肌がザラッとするし、服も埃っぽくなる。空気の汚れに敏感な人にはこの季節の変わり目、やや辛い時期だ。
一方、この一時的な空気の汚れが全く気にならない人もいる。私もこれまではあまり気にならなかったのだけど、今年は5歳児がよく咳をするからか、ここしばらく気になっていた。
そんな中、待ちに待った道路掃除が始まった。

冬の除雪車同様、複数の清掃車が隊列を組んで道路をゆっくりと前進している。道路がどんどんきれいになって、空気が澄んでくるのがわかる(ような気がする)。
これでまとまった雨が何度か降れば、街はすっきり洗われて、季節は緑あふれる夏へと突入する。
「鳥渡る」と言えば、アラスカでは鳥が戻ってくる季節、春の季語になるわけだ。日本とは逆である。
昨日は仕事帰りに予約していた歯医者が思いのほか早く終わり、いつもより早く5歳児のお迎えに行くことができたので、いっしょに図書館に行ってみた。
図書館の近くには小さな人工の池があり、冬中エサをやる人がいるせいか、カモがたくさん住み着いている。昨日はそのカモに混じって、カナダガンがいた。また今年も、南から渡ってきたのである。

おおお。雪はまだ残っているけれど、もうそんな季節なのだ。
「ここに花がたくさん咲いていたのにねえ」と5歳児。去年ここで花摘みをしたことを思い出したらしい。「もうすぐまた花が咲く季節が来るよ」と私。
カモとカナダガンは、昼寝したり泳いだり歩いたりフンをしたり逃げたり飛んだり食べたり、せっせと活動している。
昼寝したり泳いだり歩いたりフンをしたり逃げたり飛んだり食べたり、人間の活動もたいして変わらない。
何にしても、春は躍動の季節だ。
カリブーロッジ2泊目。
何となく夜中に目が覚めた。外がうっすら明るい。時計を見ると午前3時。夜明けが早くなったなあ…と思いつつ、せっかくなので(?)トイレに行くことにする。お布団から出てそのままでは寒いので、ジャケットを着てキャビンの外に出る。
明るいなあ。
用が済んだらまたキャビンへ。さて、と再び時計を見ると、午前6時。時計を見間違えていたらしい。道理で明るいはずだ。お日様が顔を出しかけている。

前日一日中降り続いた雪もやみ、今日はお天気がよさそうだ。
まずパーコレーターのコーヒーをたっぷりと飲む。山のコーヒーはどうしてこうもうまいのか。
最終日の朝ご飯はパンケーキ。もちろん、バター、手作りシロップ、手作りジャムをたっぷりかける。カリカリベーコン、スクランブルエッグも山盛りだ。

5歳児には特別にイースターバニーのパンケーキ。

マイクが「ボクも欲しいよおお、ボクにもちょうだいよおお」とベソをかいたので、5歳児の頭の中では「マイクさん=ヘンなおじさん」という図式が不動のものとなった。
食後、マイクがスノーマシーンでグリズリーベアヒルに連れて行ってくれた。マイクとパム、息子のアーロンが20年前この地に移り住んだ翌日にこの丘に登り、熊を4頭見たことから「グリズリーベアヒル」と名付けた丘だ。

後ろに大きなソリを付け、お客さんの荷物、薪用の木などを運ぶのに大活躍のスノーマシーン。ソリに2人、座席に2人の合計4人が乗ってもどんどん坂を登っていく。

丘の上に到着。この日もマッキンリーは見えなかったが、マッキンリーが見えなくても気分は最高。ついこんなポーズになる。

時間がたっぷりあれば、ロッジからスノーシューで丘に登り、てっぺんでお茶を飲むのもいい。
夏には、湖をはさんだ向かい側、一番奥にあるピークの近くまで飛行機で行って、そこから数日かけてロッジまでキャンプをしながら戻ってくる、という過ごし方もある。
あるいは、この辺り一帯にたわわに実るブルーベリー、クランベリー、ウォーターメロンベリー詰みに一日中没頭することもできる。
はたまた、丘のてっぺんで草の上に寝ころがって、ひたすら本を読むのも至福の時間だ。時々昼寝をしながら。
…あれやこれやは次回の楽しみとし、今日のところは丘を下る。
タルキートナエアタクシーのお迎えの時間まであと1時間。あとひとつイベントが残っている。
それは、イースターエッグハント。昨日染めておいた卵を雪の中にかくし、子供を呼びにいく。

卵は食用色素に酢を入れるのを忘れたので濃い色には染まらなかったが、パステルカラーの卵がかえって春らしくてかわいいのだった。残念ながら、卵の写真を撮るのを忘れてしまったのだが。
エッグハントの間、マイクはスノーマシーンで湖の上に新たに降り積もった雪をならしに行ってくれる。迎えの飛行機がうまく着陸できるようにするためだ。

湖の上に我らのための滑走路ができあがる。いったんロッジに戻り、荷物をまとめて迎えの飛行機を待つ。マイクとパムとのおしゃべりの時間もあとわずか。
彼らの小型飛行機は冬の間はスキーをはき、夏の間はフロートをはくが、間もなく雪解けの季節が来ると、湖の氷が完全に融けてしまうまでスキーもフロートも使えないので飛行機の発着はできなくなる。そうなるとマイクとパムは数週間ここから動けなくなる。
彼らの他には人間は誰もいないあまりにも静かなこの場所で、彼らは20年も自分たちの力で暮らしてきたのだ。そして、アラスカ中の人里離れた私の全く知らない場所で、今日もたくさんの人々が元気に暮らしているのである。すごいエネルギーだなあ。

とうとう迎えの飛行機が来た。手前はマイクとパムの飛行機。

名残惜しいが、いつまでも雲の上にいることはできない。都会の人間と荷物を積み込んで、あっという間に飛行機は飛び立った。
窓から見下ろすと、雪の上にムースが見えた。後でマイクに聞いたら、私たちの飛行機が飛び立った後でムースが湖の向こうからロッジに向かって歩いてきたそうだ。
きっとあのムースだ。
キャビンでプロパンガスストーブの種火だけ付け、温かいお布団にくるまってぐっすり眠った翌朝。
外は雪。
コーヒーは8時にはできてるよ、と前夜に聞いていたので、そろそろメインロッジに行ってみる。
コーヒーはパーコレーターで淹れて、冷めないように薪ストーブの上に置いてくれていた。山小屋のコーヒーはこれだなあ。うまい。
朝からパンを仕込むパム。コーヒー片手に、見学。「昨日作ろうかと思ったんだけど、お天気が悪くてもしかすると来られないかもしれないと思ったから」とパム。パンは新鮮さが命、と。ありがたい。

しばらくして焼き上がったパン。パムとマイクの2人で朝食の準備。

ハッシュポテトとカリカリベーコンもジュージュー言っている。パンは真ん中の鉄板の部分で焼く。焦げ目のついたトーストってうまいんだな。

パム手作りのブルーベリージャム、ウォーターメロンベリージャム、ツルコケモモのマフィン、スクランブルエッグもテーブルに運ばれ、みな揃って朝食。
あまりのおいしさに食べることに夢中で、写真を撮るのを忘れた。
今日はスノーシューでハイキングに出かけるはずだったが、雪はやみそうにもなく、視界がどんどん悪くなっていく。
こんな日は薪ストーブの火を眺めながら、おしゃべりしたり本を読んだりするのがいい。時々薪を補充するのだが、5歳児にも手伝いをさせてくれる。

おしゃべりも一段落、スノーシューとソリをやることにする。遠出はしないで、ブルーベリーヒルまで。
スノーシューは木と皮でできた元祖のスタイル。私のアルミ製のものとはオモムキが違う。軽くて柔らかく、体に馴染む感じ。

5歳児はソリで運ぶ。

斜面でにわかに雪の彫刻家たちが活動を開始する。

5歳児が作ったのはうさぎだそうだ。父はなぜか自分を雪に埋めることに夢中になっていた。

雪遊びの後、薪割りでもやってみるか、と思い立って、マイクに薪割り講習を依頼。こんなとき何も言わずに外に出て、パムとマイクが1ヶ月かけて使うぐらいの薪をあっという間に作ることができたりしたらかっこいいのだが、冴えない私はそんな技は持ち合わせていない。
最初に、マイクとパムが森で切って運んできた丸太をチェーンソーで長さを揃えて切る。チェーンソーの使い方、注意点についてまずマイクより説明がある。チェーンソーの先で丸太を切ろうとすると歯が自分の方に反っくり返ってきてけがをする。チェーンソーの歯はガタガタで汚れているので、けがをすると傷がぐちゃぐちゃになって大変だ。…などなど。
この時点で既にかなり腰が引ける。薪割りをしたいなどと言い出したことを少し後悔する。でも言われた通りやってみる。

これはなかなか面白い。
次に、斧で割っていく。これから割る丸太をよく観察する。節目がある場合は、それをよけるような角度で割っていくようにする。割れ目が既にできている場合は、そこに斧の刃を当てるようにする。斧を振り下ろす位置から目を離さず、足は肩幅に広げて、斧を振り下ろす。

斧が重い。へっぴり腰でなかなか狙いが定まらない。狙った割り方とはずいぶん違う薪になってしまったが、「ストーブには入る大きさだからこれでいい」というマイクのお言葉にほっとして斧をおく。
チェーンソー、斧を自由に使いこなせるようになるまでには、ずいぶん修行が必要だぞ。山暮らしは体力も使うが、頭もたくさん使うのだ。
この日は我々が夕食にギョウザと生春巻きを作った。子供たちも手伝って、おかしな形や怪しい中身のギョウザや春巻きがたくさんできたが、味はなかなかのもの。マイクとパムは初めて食べるアジアの料理を気に入ってくれたようだった。
食後にはパムのブルーベリーパイ登場。甘くてさくさくして、おいしいアラスカの味だ。

「明日はイースターサンデーだけど、色付き卵作りたい?」とパムが聞いてくれた。パムは相手の意見を尊重し、最初から「これやりましょう」とは言わない。でもパムの提案はいつも魅力的で優しさがこもっている。食用色素を溶かして卵を染める。5歳児も大喜び。

午後11時前、暗くなった空の下をキャビンに戻って就寝。
明日はとうとう下界に戻る日。雪、やむかなあ…。
雲の上で週末を過ごすことになった。
アンカレジから陸路タルキートナへ。そこから先は小型飛行機だ。パイロットはタルキートナエアタクシーのオーナー、ポール。


約15分の飛行の後、見えてきたのはカリブーロッジ。冬は飛行機(15分)かスノーマシーン(3時間)か徒歩(2日?)、夏は飛行機でのみ到達可能な別天地のロッジだ。

凍った湖に着陸。オーナーのマイクがスノーマシーンで出迎えてくれる。マイクは私たちの飛行機の着陸に備え、スノーマシーンで雪上を何度も行き来して雪をならし、「滑走路」を作ってくれていた。

空気が鮮烈に澄んでいる。


トイレはアウトハウス。サインを「使用中」に切り替えることをならってさっそく実践する5歳児。

作業場にはカリブーの角。マイクはハンターであり、ハンティングガイドでもある。自分たちで食べる肉のほとんどは自分たちで狩りをして手に入れている。遊びのためではなく、生きるための狩猟だ。
マイクはとにかく四六時中ジョークを言うのだが、ジョークだと思って聞いていると時々本当に大事なことを言ったりするので、とりあえずは真面目に聞くしかない。

メインロッジではパムが夕食の支度をしながら歓迎してくれた。実用的で塵ひとつない、白く潔いキッチン。まるでパムの人柄を表しているようだ。

夕食前にロッジの裏の丘、ブルーベリーヒルに登ってみる。


晴れていればマッキンリー、ハンター、フォレイカーの三山が見渡せる場所。今日は残念ながら見えないが、十分気持ちのいい景色だ。

夕食が始まったのは午後8時過ぎ。4月にもなれば、曇りでもまだこんなに明るいのだ。
窓辺では、夏に庭に植えられる野菜の苗が雪解けを待っている。

食事は旅の楽しみの中でも大きな位置を占める。この日の食事はステーキ、ベイクドポテト、サラダ、温野菜、手作りパンなどなど。
おいしい食事があるとおしゃべりもさらにはずむ。デザートを食べ終える頃にはずいぶん暗くなっていた。
ロッジには水道はないし電気もない。水は湖から汲んでくる。電気は必要なときだけ自家発電をする。メインロッジの暖房は薪ストーブ、キャビンはプロパンストーブだ。照明は主にプロパンガスのランプを利用するが、アルコールランプもある。

アルコールランプに灯をともしたのは、本が読めない暗さになってさらにしばらくしてからだった。
夜、こんなに暗くなるまで灯りをつけずに過ごしたのは何年ぶりだろうか。
もう30年以上も前の話だが、子供の頃毎年夏に遊びに行っていた長野の山小屋のことを思い出した。最初の頃は電気がなく自家発電だったため、夜は各部屋にアルコールランプが配られた。水も川から汲んでくる大切なものをちびちびと使った。都会暮らしに慣れた夏休みの子供心には楽しい経験だったが、毎日の生活となると話はちがっただろうと思う。
カリブーロッジには「なくてもいいもの」は何もない。そこにあるすべてのものに意味、役割がある。「なくてはならないもの」だけで、こんなに豊かに暮らせるのだ。いわば究極の「断捨離」かな、と思ったが、いや、マイクとパムは、後で不要になるようなものは初めから持たないのだろうな、と思い至った。
そんな暮らしを、一番近い隣人から30キロ以上離れたこの土地で1年中、20年も続けているマイクとパム。カリブーロッジのゲストは、この世のものと思えないほどの美しいアラスカの大自然の真っ只中で、自然の厳しさ、そして厳しさゆえの豊かさを垣間見、体験することができる。
今朝の新聞の記事。
フロリダから昨年9月にアンカレジに引っ越してきた人が、「念願のムースとの触れあい」を果たした映像がYouTubeで流れ、Fish & Game(野生動物保護やフィッシング、ハンティングの管理などを行うアラスカ州の役所)や一般市民からその行動を非難されている、というものだった。本人のお母さんもフロリダから電話をして、娘を大声で叱ったらしい。
実はこの映像、ムースを触った本人や家族ではなく、同じアパートに住んでいる他人が撮影したもので、本人は「ビデオを撮られているなんて知らなかった。『アラスカでムースを触ろうとしたCrazyな女性』呼ばわりされるのはいい気分ではない」と言っているとのこと。
そりゃあそうでしょうけどねえ。
冬も終わりかけのこの時期、この辺りのムースは冬の間の街暮らし(山は雪に覆われていてえさの小枝などを探すのが難しい)とえさ不足で気が立っている。そのムースに触ろうとするなんて、彼女は何ともなくて本当にラッキーだったが、非常識もはなはだしい、というのが非難の内容。運が悪ければムースに蹴っ飛ばされたり踏まれたりして大怪我をしていても全くおかしくない、のである。実際にムースに蹴っ飛ばされて亡くなった人もいるぐらいなのだ。
ムースに触ることは、ムースの怒りを買う恐れのある危険な行動であると同時に、ムースに対するハラスメント(迷惑行為)に該当する行動ということで、州の法律に触れる恐れもあるという。
私もつい数日前、拙犬の散歩のときに近所でムースに出くわし、横を通ろうか、それとも大回りして他の道を通ろうか、と逡巡した。今朝も通勤途中道路を横切っているムースを見た。それぐらい、アンカレジではムースは「身近な存在」なのである。
ムースに自分から近寄っていって触ろうとはユメユメ思わないけど、彼女の気持ちはわからなくはない。日本で生まれ育った私にとっては、街中をこんな大きな野生動物がうろうろしているということが、いまだに信じられないので、ムースを見かけたらつい写真を撮ってしまう。彼女は生まれついての動物好きで、「いつかムースと交流したい」と思っていたらしい。
実は我が家人も何年か前の冬に我が家の庭に現れた母ムースを触ってしまったことがある。
2階の窓から家族でこの親子の珍客を眺めていたのであるが、向こうも興味を示したのか、ゆっくり、でもどんどんとこちらのほうに向かって歩いてきた。そして、窓の外に出していた夫の手に鼻を寄せてきた(本人談)のである。
なんでしょうねえ、夫の腕が、小枝=食べ物にでも見えたんでしょうかねえ…。
本人に無断で撮影をして無断でインターネットで発表するのもどうなんだ?と思うが、いずれにしてもこの人、怖いもの知らずだなあ、無事でよかったなあ、と思ったことだった。
日本からのお客さんにもムースファンは多い。ムースや他の野生動物にばったり出くわした時には、どうぞ遠くからやさしく見守ってあげてください。